リコール署名を蝕むもの

リコール請求はハードルの高い直接請求としてこれまであまり実行されてこなかった。 ウィキペディアに拠れば、戦後初期を除き2000年代に入ってからでも全国で市町村長の解職請求が15~6件、議会解散請求も15~6件しか行われていない。しかし一方で地方自治の制度劣化による行政と議員の翼賛化、議会機能不全などが各地で顕在化し、他方でパソコン、プリンター、ネット環境などの進化で、これまで資金的にも事務的にも時間や費用がかかった弱点などが緩和され、各地の先進的議員や市民グループの経験に学んで請求を起動することが比較的簡単になり、極端に言えば数人が核となって思い立てば運動を展開することも可能になった。

勿論、請求の対象が首長や議会が推進する巨大施設建設の可否や、入札・契約などに関する明白な逸脱であることなど、広範な住民・市民の怒り、疑問から発する支持が請求実現に欠かせない事には変わりがない。

有権者の3分の1とか、政令指定都市などでは数十万の署名を、請求認証から市町は1か月という短期間(県は2か月)に収集することが必要であるから費やす労力に比べればまだまだ、条件クリアが難しく改善の余地のある制度である。

老人は今回、最近のリコール請求の審査について調べて見た。その結果辿りついたある推論をこれから2回にわたって報告する。


最初に注目するのは鹿児島県阿久根市の議会解散請求である。ここは周知のごとく、竹原信一さんという稀有な議員、市長が出現して数回の選挙が行われその過程で市長と議会、双方にリコール請求が行われている。

平成22年12月に議会解散の請求が出された。リコール時の選挙人名簿登録数は19,905で法定成立数6,635を2,133名上回る8,768の有効署名を集め、法定数をクリアし、翌平成23年2月の住民投票で解散票多数となって議会解散、4月24日議員選挙執行と進んでいる。

この請求の署名数は9,265名、うち無効は497名、有効署名数は8,768、全署名数に対して無効とされた署名数を仮に失格無効率と呼べば無効率は5.36%である。

無効の理由は表1の通り選挙人名簿不搭載、重複署名、要件欠落(署名・捺印・生年月日・住所の正確な記載が必要)等である。 
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   表1、クリックで拡大


次に岐阜県中津川市で平成23年9月市長リコール請求が起こり、法定数をクリアした段階で市長が辞職、(そのため住民投票は省かれた)翌23年1月選挙で前市長は落選失職している。この請求の署名数は32,276、無効署名数は1,680、失格無効率は5.20%である。。
無効の理由は表の通り名簿不搭載、重複署名、同一筆跡等で、阿久根市と似る。

 リコール請求は選挙の投票とは異なって署名する事自体が一方の立場の表明であるから、ごく普通に考えれば請求を受けて署名に反対する方(首長や議会議員)は『署名するなとか、署名しないようにとか、請求に大義はないとか、反対キャンペインを展開する』等が普通であろう。   反対する勢力が誤って署名する事は普通には考えられない、又は少ないというべきであろう。  だからこの2市の署名の失効認定は普通に、選挙人名簿不搭載、記載要件欠如や収集上の瑕疵、収集上の委任者不記載や、重複署名などであったと考えられる。

中でも重複署名については、押印しての生年月日、住所の自署である事を考えればそれ程多く発生するとは考え難い。


3例目は傑出したキャラクターである河村たかしさんの君臨する名古屋市議会解散請求である。事情を余り単純化するのは避けなければならないが、度重なる執行部提案否決に、業を煮やした河村市長に呼応する市民によって、平成22年8月市議会リコール請求が勃発した。

法定数が集まるはずがないと多寡を括っていたらしい議会側の楽観を覆して、真夏の署名運動は熱く展開され、署名者465,602名、失格数96,594名で法定数をクリアし、この後23年2月住民投票での解散票多数、3月市議会議員選挙と進んだ。

この請求の失格無効理由は表の通り名簿不搭載、重複署名、記載事項不備、委任状不備、などであるがその率は20,74%で、前2市に比べて異常に多い。

この審査に当たって名古屋選管(中央の市選管の他に16の各区にも選管が設置されている)は、審査中から周囲の『疑義や違法な収集についての情報』がある事などを理由に審査期間を延長し、署名者委任者99,873人(署名者総数の21,14%)に調査票を送るという挙に出た。  その結果、一旦は法定数を下回る353,791というリコール不成立の数字を公表しながら、調査票回収とその後縦覧期間の異議申立による何名分かの復活を経て369,008という最終決果を発表した。 上回る事僅か3,213名で、法定数は辛うじてクリアされた。





問題はその署名審査に関してである。名古屋では、請求代表者等が短期間に数万の署名を集めることが可能であったか疑問がある、などとして審査期間を延長し、確認の調査票を送ると言う『審査権』を行使した。

名古屋での調査票送付については、事務当局の
『(署名)が真意であったかどうかを審査する事は不可能』
『(個々に)真意があって署名したかどうか迄調査する事は不可能』『全件調査は難しい』『抽出調査はできない』
『選管に期待されているのは事務的、技術的な審査であり、そこには限界があり、淡々と事務をするしかない』
『11万4千件について問い合わせをすることは市民の反感を招くような気がしてなりません。市民を信用していないのかという声があります』
『どうやって聞くかという事が非常に難しいし、結論が出るのかということも難しいと思います』
といった精一杯の説明に対し
4名中3名が議員OBである選管委員は、『いっそ、(全部無効にして)裁判にして貰った方がよいと思う』などと暴論を吐きながら、99,873通(全数に対し21.45%、回収率は77,080通、77,2%)の調査票送付に踏み切った。調査に対し返送のなかったものは有効とされた。

何故だろうか?    当時議員側とリコール請求側には厳しい意見対立があった。  75議員中河村市長支持は唯1人というなか、74人が署名反対を表明しながら署名全体の圧倒的盛り上がりには太刀打ちできないため、議会解散の当非当否を争うことよりもテクニカルな毀損、署名運動そのものの要件正当性を棄損し歪曲しようとする動きがあったのではないかと老人は推測している。リコールに反対の者も署名に参加し瑕疵のある署名を紛れ込ませることによって署名数の水増しを謀る(→達成したと思った数が蓋を開けたら→厳正審査、無効判定続出で→法定数不足に変わる)という陰険な介入である。選管委員はその事→大規模な組織的介入、歪んだ干渉を何らかの理由で知っていたからこそ調査票送付によって署名の大幅な失格を表面化し、リコール不成立を演出・確定できるものと確信していたのではないだろうか。
『審査を粛々と行い、市民の民意を正しく反映させなければならない。真意でない署名が数多くあるように思う』と調査票送付を選んだ選管が、その後の解散投票で示された結果、解散賛成69万6,146、( 73.3%)、 反対、 25万2,921、( 26.6%) という圧倒的民意についてどうコメントしたかは不明だ。

自治体規模の違いがあるとはいえ前段で述べた2市では、署名全体の失格無効率は5%強であるのに対し、名古屋では20%を超えている。(そして後述する古河市でも、コアな署名重複9%強を含み,何故か無効率が20%であった)

議会解散請求のスタートに際し、河村市長の手法を批判するある憲法学者は
『議会は住民動員でリコールを目指す動きと正攻法で戦うべきだ』と檄を飛ばしたと、渦中に書かれたあるリポートにはある。住民動員で~正攻法で戦うとは、この場合署名運動の内部に潜入して瑕疵のある署名を潜り込ませる事だったのではないか、選管の慎重審査、個別調査票送付固執と併せると、暗い疑問が湧く。 (以下次回)


尚、名古屋選管はこの署名審査に署名簿縦覧事務の超過勤務手当など3904万円、補助・臨時的任用職員賃金1031万円、調査票、異議申出決定書郵送料など2299万円など 計8960万円を支出している。




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