リコール署名を蝕むもの 2

リコール請求は起動すること自体が、そして賛同して署名する事それ自体が、ある立場を表明する事であるから、外形的要件に不備がなければ認められるのが当然である。  市民が署名するに当たって、名簿を差し出す収集相手が受任者であるか請求代表者であるかなど、駅前や街頭で確かめる事など普通はないであろう。もしそういう確認がなければ署名は無効であると判定するなら、署名スタートに際して厳格な要件として選管が周知させておくべきだし、収集側は要件を守って運動を進めるべきだろう。

であるから圧倒的権限と情報を持つ執行側が、改めて個人宛の調査票送付等によって署名内容などの再確認を行うことは思想信条の自由の侵害とも言うべきで、期せずして名古屋古河共請求代表者から、基本的人権の侵害や公職選挙法違反の疑いがあると質問状が出たのは、蓋し当然の言及であると言えよう。


茨城県古河市で、24年8月から展開された市長リコール署名が、署名数51,913、無効10,360、法定数39,429をクリアする41,553名という結果になった事は表1の通りである。失格無効は10,360、全体の19,95%、中津川、阿久根の5%程度と大きく乖離して、名古屋の失格無効率と殆んど同じである。
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   再掲 表1、クリックで拡大




古河市の件でも選管委員は、『受任者数が多いことや受任者となった覚えがないとの苦情もあることから』委員会として受任者に対して調査する必要がある』と決定し、
事務局側が、
『調査の目的、経費等について』や、『個人情報保護法に違反するのではないか』といった苦情があること、
『アンケートなので(押)印は求めない』
『アンケートのみでは有効無効の判定はできない』
『(調査票返送は)任意か義務かという事になると任意となる』

などと再三釘をさすような応答をしているのに、2回合計57,753通の、届け出署名数より多い調査票送付を選択した。回収率は第1回4,114通で33%、第2回11,187通で送付通数の24,7%と審査には何ら資する事なく審査厳密化には程遠い結果となった。

古河市の署名に際立って特徴的に見られるのは重複署名の多さである。それぞれ4市の無効署名のうち重複署名による失格は阿久根市で総数の3,82%、中津川で1,50%、名古屋で2,16%であるのに対し、古河市では9,63%と異常に多い。何を書こうと勝手で、投票後遡って追及される事などなく、秘密が守られている無記名の一般の選挙投票などに比べ、自署し捺印を要するリコール請求において単純な過失と考えるには、不自然に多すぎる無効数である。

ここでも署名運動に対し反対を唱えて、施設(130億の文化センター)建設の正当性キャンペインを張るのではなく、署名運動の内側に入り込んで瑕疵のある署名を潜り込ませ、蓋を開けたら失格が多かったとする、異なった角度からの関与が図られた可能性がある。署名簿が受理(9月25日)される以前、審査が始まる前(9月20日)に早くもリコール反対派から要望書が出されている。

その要望書の内容は、『受任者全員が請求代表者から正式に委託(委任?)を受けているか否か立証(?)されたい』、『全世帯(?)に対しアンケート調査を実施されたい』、という類いのものであった。書式も墨書されていて時代劇の小道具並みの代物で、現職市議会議員から提出されたとは俄かには信じ難いものであった。
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ところが何故か、選管はその要望に呼応するかのように審査期間延長を宣言し、2度に亘る調査票送付を選択した。 名古屋同様古河市選管は、恰も仕掛けられた謀略(実際にあったかどうかは判らない)に同調するように、『結果を調べるまでは法定数クリアの成否は判らない』、というが如き対応を続けた。署名運動そのものの正当性棄損運動が(実際にあったかどうかは判らない)広範囲にしかも確実に実行されていた、と、まるで耳打ちされていたかのような対応が不審である。

しかし、名古屋や古河での何者かによる不純な意図は、1度は法定数未達という判定を受け、リコール潰しが成功する寸前で、巧まざる回復力が機能することによって実現することはなかった。

古河市選管は審査に当たって
  生年月日については、年、月、日で1か所1つ違いは有効。
  住所地番等は脱落、誤記と認められれば有効。
  氏名は正確に記載されていなければ無効。しかし女性の氏名で名前に子等が追記されている場合、有効。
等として、この重複署名による無効は他の記載事項欠如や、委任届なしや代筆不適切とは重複しないという。住所氏名は正しいのに捺印のないものや、代筆不適による無効や住所記入が欠けているものなどはその点で既に失格となっていて、重複での無効にはカウントされていない。
つまり署名は同一人によって正しく2回(或いは3回)署名されて、その一方だけが無効とされているのである。

重複署名は4市全てで一方は有効と判定され残った。つまり無効とされた署名数と同数の一方の署名は正当な有効署名とされて残ったのだ。仮に重複署名そのものの大半がなければ名古屋では重複失格数の2倍近い20,000に近い10,000名ほどの大部分が欠けていたことになり、3,129名上回っただけの法定数を大きく割り込んでいたし、法定数を僅か2,124名上回っただけの古河市でも署名の重複によるコアな失格数5,000の2倍に当たる10,000名近い数が不足して法定数クリアには程遠い有効署名数しかなかった事になり、共にリコール請求は頓挫していたことになる。署名全体の信頼性・要件正当性を棄損しようとした何者かの謀略(が仮にあったとすれば)は、反対なのに上辺だけ賛成派に同調するという、リコール制度の原点を犯すような陰険な方法そのものによって挫折したのではないかと老人は思う。

(尚、古河市では、この署名審査期間中に、前年同期の9月~11月ほとんどゼロだった、選管事務局の時間外勤務手当371万円が計上され、審査システム使用料56万円、調査票発受信郵便料523万、封筒代・印刷料70万円など概算で1000万円程の経費がかかっている。)




阿久根中津川2市のリコールは充分な署名数を持って、厳正調査の2市は危ういクリア数で、いずれも法定数を達成し、所期の目的を達成して選挙に進んだ。が、しかしその選挙の結果がどう波及したかは必ずしも明確ではない。 

阿久根市では議会の構成は選挙前とあまり変らないままだったようだ。数回の市長選でも、僅差で結果が分かれており、直接請求が十全に機能したかは不明だ。

中津川では前市長退場は果たしたもののリコール請求側が立てた候補者は落選し、必ずしも所期の目的が達成されたとは言えないようである。リコールに抵抗した勢力のうち共産党は その後の  前後した 市議選で全3議席を失ったという。

名古屋でもリコール反対派はバタバタと落選し、市長派の減税日本が28議席を獲得して運動の成果を見せつけた。しかし市民の絶妙のバランス感覚を示したものか議会の過半数を占めるには至らず、河村市長の意図したことが十全に実現したかは不明である。その後減税日本の新議員は相次ぐ不祥事を起こし議員辞職も続いて失望を呼び大きな反発も買っているようだ。


古河市では出直し市長選が、24年暮れの自民党圧勝・民主党惨敗の衆院選と同時に行われ、民主党大逆風のなか辞職から再挑戦した保守系前職を、合併前からの因縁の対決と言われた民主党系県議が、一騎討ちの末に破って当選し、リコールの目的は達せられたようにも見える。  ご両人の(白戸仲久氏と菅谷憲一郎氏)お名前を冠して菅白(かんぱく)第4次戦争と呼ばれた合併前からの因縁の選挙は初めて菅谷氏の勝利という結果になった。  しかしリコール推進派の独自候補擁立までは叶わず、前市長を支えてリコール反対に動いた議会多数派は依然として存在感を示している。争点の文化センター建設は当面撤回されたようだが、菅谷氏当選を消極的選択と評する声もあって、目指した結果に辿りついたかははっきりしないようである。


丁度、愚かな自民党公明党や強硬な保守派によって、特定秘密保護法が成立して今後の市民活動や執筆、学問、研究、報道、司法などに甚大な萎縮が始まる懸念が表明されている。この資料検索を通じて老人が得た教訓は悪法成立以前に、情報を握る官僚、公務員の恣意的な執行権行使によって、制度として保障されている直接請求においても歪んだ介入が可能であるという暗い感想であり、選挙人名簿という個人情報を握って悪用すれば思想信条の自由に対する威迫、差別、疎外も簡単に行えると言う事であった。

  
戦後の制度設計に由来する独立した行政委員会という名の選挙管理委員会、教育委員会、農業委員会などは全く形骸化していて、執行部理事者側の引き回しに従う以外にどんな機能も果たしていないように見える。古河市でリコール請求が起こるまで選挙管理委員の仕事と言えば、月1回年に16~7回ほど1回数十分の会議(→中には15分、20分という時さえある)に出席して
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役所職員がパソコンからダウンする資料を追認するだけであって実務を執る訳でもなく、既成事実を追認する以外に何の研鑽も積んでいないように見える。

リコール請求や住民投票を、地方自治の難題全てを切り開き解決する万能の刀と思うのは感違いなのであろう。それは当面する争点について、その時々の民意を測る限定的なものでしかなく、寧ろ署名運動などを通じて議会と住民自身が互いを教育し、学ぶ力を高めて行くための道具なのであろう。  そうであるなら道具は使われなければ役に立たないし、道具である制度が蝕まれるのを許してはなるまい。

追記
現在休眠中の 『開かれた議会をめざす会』 は昨24年12月、『直接請求・住民投票・署名活動と議会』というシンポジウムを開き、古河市「総合的文化施設建設に反対する会」岡田城忠さん、かすみがうら市「市議会リコール実行委員会」日下部功さん、小金井市「職員手当削減直接請求2012」高木章成さん等をお招きしてお話を伺っている。

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